導入文:採用しても「すぐ辞めてしまう」悩みをどう減らすか?
「せっかく採用したのに、1〜2年で辞めてしまう…」
「人が足りないから、とりあえず採用しているが、定着しない」
こう感じている中小企業の経営者・人事の方は少なくありません。
厚生労働省の最新調査では、常用労働者全体の年間離職率はおよそ14%前後。
さらに企業規模別に見ると、従業員100〜299人規模では約19%と、中小企業ほど離職率が高い傾向が示されています。
一方、新卒採用では「3年3割問題」と言われるように、就職後3年以内に約3〜4割が離職しているのが現状です。
そして、帝国データバンクの調査では、正社員が「不足」していると答えた企業は5割超。
「採用できない」「採用しても定着しない」という二重苦に、多くの中小企業が直面しています。
ですが、離職率は「運」ではなく、仕組みで下げることができます。
この記事では、
- 中小企業の離職率が高くなりやすい背景
- よくある失敗パターン
- 今日から始められる「3つの仕組み改善策」
を、採用マーケティングの視点から整理します。
最後に、実務に落とし込むための相談窓口・資料DLもご案内します。
1. 中小企業を直撃する「離職率」と「人手不足」の現状
1-1. 日本全体の離職率と中小企業の状況
厚生労働省「雇用動向調査」によると、2024年の常用労働者の年間離職率は約14.2%。
さらに企業規模別にまとめたデータでは、以下のような傾向が示されています(2023年度)。
- 従業員1,000人以上:離職率 約14.2%
- 300〜999人:16.1%
- 100〜299人:19.0%
- 30〜99人:16.0%
- 5〜29人:15.6%
中堅・中小企業ほど離職率が高くなる傾向があることが分かります。
一方、2024年1月の調査では、正社員が「不足」と答えた企業は52.6%にのぼり、過去と比べても高い水準となっています。
別の中小企業向け調査でも、人手不足を「非常に深刻」「深刻」と答えた企業が6割超という結果が出ています。
つまり、**「そもそも人が採れない」うえに、「せっかく採用しても辞めてしまう」**のが、今の中小企業を取り巻く現実です。
1-2. 離職がもたらすコストは想像以上に大きい
1人の社員が辞めると、目に見えないコストも含めて、以下のような負担が発生します。
- 求人広告・紹介料などの採用コスト
- 面接・書類選考にかかる経営者・管理職の時間コスト
- OJTや教育にかけた育成コスト
- 慣れた人材が抜けることによる生産性の低下・機会損失
- 残されたメンバーのモチベーション低下・疲弊
例えば、1人の採用〜育成に「ざっくり80万円」かかっていると仮定します。
80万円 × 3人が1年内に退職すると、年間240万円(80×3=240)の負担です。
これに「売上機会の損失」や「メンバーの疲弊によるパフォーマンス低下」など、見えないコストが上乗せされていきます。
だからこそ、中小企業にとって**「離職率を下げる採用戦略」=攻めの経営戦略**です。
2. 離職率が高くなる3つの原因(よくある失敗パターン)
ここからは、現場でよく見る「失敗パターン」を3つに整理します。
多くの中小企業は、特別な理由があって辞められているのではなく、仕組みがないから辞められている状態です。
原因① 採用時に「仕事のリアル」や評価基準を伝えていない
よくあるのが、次のようなケースです。
- 求人票が「誰にでも当てはまりそうな良いこと」だけで埋まっている
- 忙しさ・体力的な大変さなど、しんどい部分をほとんど伝えていない
- 面接で仕事内容・評価基準・キャリアの話を深くしていない
- 「まずは採用して、あとは現場で何とかしてもらう」前提になっている
この状態だと、入社後に必ずこうなります。
「聞いていた話と違う」「こんなに忙しいと思わなかった」
結果として、ミスマッチ採用 → 早期離職という流れが加速します。
採用マーケティングの第一歩は、「応募数を増やすこと」ではなく、ミスマッチを減らすことです。
原因② 入社後のオンボーディングが属人・丸投げ
多くの中小企業では、入社後の流れが次のようになっています。
- 初日にざっと挨拶&書類説明のみ
- 2日目からすぐ現場に配属され、先輩の仕事を見ながら覚えるだけ
- 誰がどこまで教えるのか、役割分担が決まっていない
- 分からないことを聞ける「メンター」や1on1の場がない
これでは、
「何をどこまでできればいいのか分からない」
「怒られないために仕事をするようになる」
という状態になりやすく、結果として離職率が上がります。
原因③ 評価・キャリアの「見える化」がなく、モヤモヤが溜まる
- 評価のタイミングがバラバラで、何を見て判断されているのか分からない
- ほとんどフィードバックがなく、給料が上がった/上がらない理由も不透明
- キャリアパス(例:リーダー・スペシャリストなど)について話す場がない
このように「評価・キャリアの見える化」がないと、
まじめな人ほど不安と不満を溜めやすく、転職を考えやすくなります。
3. 中小企業が今すぐできる「3つの仕組み改善策」
ここからが本題です。
離職率を下げる採用戦略として、**中小企業でもすぐ始めやすい「3つの仕組み」**を紹介します。
3-1. 仕組み① 採用前から定着を見据えた「採用コンセプト&情報発信」
ポイントは、「どんな人に長く働いてほしいか」を先に決めることです。
① 採用コンセプトを言語化する
最低限、次の3つは紙に書き出しておきます。
- どんな価値観・タイプの人に来てほしいか
- どんな仕事・役割を任せたいのか
- 1年後、その人にどうなっていてほしいか
これをベースに、求人票や採用サイト、面接での説明内容を統一します。
② 求人票に「仕事のリアル」を書く
応募数を増やすために良いことだけを書くのではなく、
「向き・不向き」「大変なところ」も含めてリアルに書くことが、結果的に離職率を下げます。
求人票に必ず入れたい情報の例:
- 1日の仕事の流れ(ざっくりタイムスケジュール)
- 担当する具体的な業務内容(例:電話対応〇割、事務作業〇割、現場対応〇割)
- チーム構成・上司の役割
- 評価や昇給のざっくりした基準(例:どんな行動や成果が評価されるか)
- 「この仕事に向いている人・向いていない人」の例
ここまで書いて初めて、
「採用戦略としての求人票」=離職率を下げるための採用マーケティングといえます。
③ 採用サイト・SNSで「職場の雰囲気」を見せる
文字だけでは伝わらない部分は、
- 採用サイトの写真・インタビュー
- InstagramやXなどでの日常投稿
- 短い採用動画(1分前後)
で補います。
特に若手・第二新卒層は「どんな人が働いているか」「雰囲気が自分に合いそうか」を重視します。
ここを見せることで、そもそも合わない人の応募を減らし、ミスマッチ退職を防ぐことができます。
3-2. 仕組み② 入社3か月を設計する「オンボーディングプラン(30-60-90日)」
離職率を下げるうえで、最重要期間は入社から3か月です。
ここを「場当たり」でなく、設計された体験に変えるだけで、早期離職は大きく減ります。
おすすめは、30-60-90日プランで考える方法です。
① 入社〜30日:安心して働ける土台づくり
目的:
- 会社・人・仕事に「慣れる」
- 上司・メンターと信頼関係をつくる
やることの例:
- 初日のウェルカム対応(挨拶・紹介・ランチなど)
- 会社のルール・理念・安全教育などのオリエンテーション
- 現場での「見学+簡単な補助業務」からスタート
- 週1回の1on1(15〜30分)で不安の聞き取り
② 31〜60日:自分でできる仕事を増やす期間
目的:
- 一人でできる仕事を少しずつ増やす
- 成長実感を持ってもらう
やることの例:
- 担当業務を「できる/要サポート」に分解してリスト化
- 1週間ごとに「新しく挑戦する業務」を決める
- 先輩がチェックしながら任せる範囲を徐々に広げる
- 1on1で「できることが増えた実感」を言語化してあげる
③ 61〜90日:役割を明確にし、ゴールを共有する期間
目的:
- 「自分の役割」と「今後の期待値」を明確にする
- 中長期のキャリアのイメージを一緒につくる
やることの例:
- 「90日レビュー」ミーティング(上司+メンター+本人)
- 良い点・伸ばしたい点・今後半年の目標を共有
- 1年後のイメージ(任せたい役割)を話し合う
これらをシート化・チェックリスト化しておけば、担当者が変わっても同じ品質で運用できます。
オンボーディングは、離職率を下げるための**超重要な「採用戦略の一部」**です。
3-3. 仕組み③ 評価と対話の「タッチポイント」を年間スケジュール化する
多くの中小企業で離職につながるのが、
「評価・キャリアの話をする場がない」ことです。
完璧な評価制度を作る前に、
まずは**「定期的に対話する仕組み」**を先に作る方が、離職率の改善には効果があります。
① 月1回の1on1ミーティング
1回15〜30分で良いので、月1回は必ず1対1で話す時間を取りましょう。
話すテーマはシンプルで構いません。
- 最近うまくいったこと・嬉しかったこと
- 困っていること・サポートしてほしいこと
- 来月チャレンジしたいこと
「話を聞いてもらえる」という安心感は、
給与や福利厚生だけでは補えない心理的な定着要因になります。
② 半期ごとの評価面談&キャリア面談
最低でも年2回は、
- ここ半年の振り返り
- 評価結果(何を見て評価したのか)
- 今後1〜3年のキャリアイメージ
を話す場を設けましょう。
評価の明確化は、
「この会社で頑張り続けても大丈夫か?」という不安を減らし、離職率を下げる採用戦略の一部となります。
③ 簡易サーベイで「モヤモヤ」を早期発見
年に1〜2回、以下のような簡単なアンケートを取るのもおすすめです。
- 仕事のやりがい(10点満点)
- 人間関係への満足度
- 評価への納得感
- 今後1年もここで働きたいと思うか
Googleフォームなど無料ツールで十分です。
数値で傾向を把握することで、「辞めそうなサイン」を早めにキャッチしやすくなります。
4. 離職率を下げている中小企業の成功パターン
具体的な数値は企業によって異なりますが、
離職率を下げている中小企業には、次のような共通パターンがあります。
パターン① 採用を「経営テーマ」として扱っている
- 「人事任せ」にせず、経営者が採用・定着の旗振り役になっている
- 経営会議で「採用・定着」の数字を必ず確認している
- 採用情報(採用サイト・求人票・SNS)に社長メッセージを入れている
パターン② 数字で「採用・定着」を管理している
最低限、次の数字は毎年チェックしている企業が多いです。
- 年間採用人数
- 入社3年以内の離職人数・離職率
- 1人あたり採用コスト(ざっくりでOK)
- 早期離職(1年以内)の件数・理由
この数字を見ながら、
**「どこでミスマッチが起きているか?」**を分析し、
求人票・面接フロー・オンボーディングの改善につなげています。
パターン③ 小さく始めて、改善を回し続けている
成功している企業ほど、最初から完璧を目指していません。
- まずは1職種だけ、求人票を書き直してみる
- まずは新卒だけ、30-60-90日プランを作ってみる
- まずは1部署だけ、月1の1on1を始めてみる
このように、小さくテスト→良かったものを全社に展開していくことで、
ムリなく、しかし確実に「離職率を下げる採用戦略」を定着させています。
5. まとめ|離職率を下げる採用戦略は「仕組みづくり」から
この記事の内容を振り返ると、ポイントは3つです。
- 現状認識
- 中小企業ほど離職率が高く、人手不足は深刻化している
- 離職によるコストは、採用・育成・機会損失を含めると経営に大きな影響
- 原因の整理
- 採用時の情報不足によるミスマッチ
- 入社後オンボーディングの属人化・丸投げ
- 評価・キャリアの「見える化」不足
- 3つの仕組み改善策
- 採用コンセプト&情報発信の仕組み化(求人票・採用サイト・SNS)
- 入社3か月を設計したオンボーディング(30-60-90日プラン)
- 評価と対話(1on1・面談・簡易サーベイ)の年間スケジュール化
離職率を下げる採用戦略は、
特別なツールや高額な制度がなくても、「仕組み」を一つずつ整えることから始められます。